諏訪市について:自然・歴史・ものづくりが息づく高原湖畔都市
長野県の諏訪市は、「透明度日本一の高原湖畔都市」を掲げ、職員の健康と健全な組織運営を重視した健康経営に取り組んでいます。
2026年度「アンガーマネジメント経営賞」を受賞した諏訪市役所では、2019年からアンガーマネジメント研修を継続し、管理職や保育園長など幅広い職員が受講してきました。
「まちの空気は、住んでいる人たちの心持ちによってつくられると思います」「職員の心持ちは、市の事業成果に直結すると思っています」
そう語るのは、金子ゆかり諏訪市長です。諏訪市健康経営宣言や職員サポート室の設置など、多様な職員が安心して力を発揮できる環境づくりと、その実践の一つとして続けてきたアンガーマネジメントについてお話を聞きました。
アンガーマネジメント経営賞受賞、おめでとうございます。あらためて諏訪市の魅力を教えていただけますか。
諏訪市は、諏訪湖を中心に、霧ヶ峰高原や上諏訪温泉、諏訪大社、高島城など、爽やかな空気と歴史があり、私たちは「高原湖畔都市」と掲げています。
また産業においても、冷涼な空気や人々の器用さをもとに、戦後は精密機械産業の発展から「東洋のスイス」とも呼ばれてきました。今は超微細加工の技術を生かして、航空宇宙や環境、医療の分野にも展開しています。
観光では、最近はアニメーションや映画の世界でもロケ地や舞台として注目を集めています。市民のみなさんとともに「磨けば輝く高原湖畔都市」を目指しています。

「透明度日本一」に込めた、心の壁のない組織づくり
2025年に、市長が自ら健康経営宣言されており、職員の健康や働きやすい環境づくりを進められています。
職員の心持ちは、市の事業成果に直結すると思っています。
職員には窓口にいらっしゃる市民のみなさんや様々な団体と接する機会があり、地域全体の空気にも影響します。ですから、まず働く職員が心も身体も健康であること、自分の力を思い切り発揮できる職場環境であることは大事だと思います。
私がお伝えしてきた「透明度日本一」という言葉には、水や空気の綺麗さだけでなく、人と人との心の壁のなさ、コミュニケーションにおいての透明度という意味も含まれています。
また、「大きな耳と分かり合う自由な対話」という言葉も大切にしています。人の言うことをよく聞きましょう。自分の話をするだけではなく、分かり合うために対話しましょう、という思いも込めました。
そうした考え方をもとに、2022年(令和4年)には職員サポート室を設置し、身体だけでなく心の健康についても相談できる体制を整えてきたなかで、2025年(令和7年)に健康経営宣言を行いました。
近年はコロナ禍、少子高齢社会、働き手の不足、育児との両立などの課題があるなかで、できるだけストレスなく仕事に向き合える環境づくりに取り組んできました。医療費削減の視点からも、健康経営は職員だけでなく行政全体を支える大切な取り組みだと考えています。
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(左から)アンガーマネジメント協会代表理事の松島徹、諏訪市長の金子ゆかり氏、諏訪市総務部職員サポート室 室長の久保田浩子氏。[/caption]
アンガーマネジメントを実践的なスキルとして導入
アンガーマネジメント研修を7年に渡り継続されていますが、当初はどのような課題意識から導入されたのでしょうか。
もともと市役所では、風通しの良い働きやすい職場づくりの取り組みとして、ハラスメント防止研修を実施していました。
その中でアンガーマネジメントを知り、働きやすい環境の改善のためには、職員が実践的なスキルとして身につけることが大切ではないかと考えて、2019年(令和元年)からアンガーマネジメント研修を取り入れたのがスタートです。
どのような研修を導入されていますか。
基礎編、実践編、アサーション編の3つを実施しています。
職員は、管理職や保育園の園長なども研修を受けていますし、近年は、私も副市長や教育長とともに理事者として受講しました。
これまでに、延べ386人が受講しています。諏訪市の正規職員は約480人で、会計年度任用職員を含めると約900人規模になります。アンガーマネジメント研修は正規職員を中心に実施しており、多くの職員が受講しています。
研修を継続して、組織に生まれた変化
受講者からはどのような声がありましたか?
受講した職員からは、「アンガーマネジメントについて、正しい理解が深まった」「業務上だけでなく、人との関わりにはアンガーマネジメントが大切だと感じた」、「信頼関係の構築のためにコミュニケーションの質の向上を目指していきたい」といった感想が寄せられています。
7年間継続されてきて、組織にはどのような変化がありましたか?
2025年に、職員を対象にしたストレスチェックの結果では、全項目のなかで「イライラしやすい」が低い結果となりました。他団体との比較もありますが、良好な結果が出ています。職員同士の人間関係も穏やかになってきた印象があります。
最近では、審議会なども含めた女性登用率が目標の40%を達成しました。部署ごとの取り組みだけでは実現できない目標でしたが、全庁が協力しながら工夫を重ねてきました。
達成できたのは、職員のみなさんの協力関係があったから。このように、あらゆるところに良い効果が生まれてきているのではないかと感じます。
健康経営と働き方改革を両輪に、誰もが働きやすい職場へ
今後はどのような職場環境づくりを進めていくのでしょうか。
健康経営宣言には5つの活動方針があり、メンタルヘルス対策や相談体制の充実により、心理的安全性の確保をすること。コミュニケーションの活性化を促進し、互いの人権を尊重し合う職場環境を醸成することなどです。
この方針に沿って、具体的に進めている取り組みが、ストレスチェックの受検率の向上、相談体制の充実、そして各種研修の実施です。
アンガーマネジメント研修やハラスメント研修、コミュニケーション研修、メンタルヘルス研修などを職員に提供しています。つながりを意識した階層別研修もありますし、新規採用職員にはメンターのような育成員を配置する仕組みも取り入れています。
また、働き方改革にも取り組んでいます。
2022年(令和4年)から2025年(令和7年)の3年間で、全職員の平均有給取得日数が3日増えました。ただ有給を取得すればいいわけではなく、休みやすい環境が必要です。「職場ではチームで仕事をしましょう」「一人で抱え込まないでください」というメッセージを発信してきました。自分の仕事を理解してくれている同僚がいることで、互いに支え合うことができます。
こうした改革や取り組みが、職員の心のゆとりやストレス低減に役立っていると思います。

一人ひとりの心持ちが、まちの空気をつくる
最後に、今後の展望について、アンガーマネジメントの視点も含めてお聞かせください。
今年の4月1日に、人材育成基本方針を改訂しました。
改訂前に、職員にアンケートを実施したんですが、「職場で能力を発揮し、公務員として成長するために重要と考えることは何ですか?」という問いに対して、「協力し合える職場」と答えた職員が群を抜いて多かったんですね。
この声を受けて、目指すべき職場の姿の柱をここに置き、目指すべき職員像についても「誠実」「協調」「柔軟」というキーワードをまとめました。「協力し合える職場」が挙がるのは、やはり良い人間関係の中で仕事をしようという意識が育まれていることの現れだと思います。
アンガーマネジメントも、その一つの取り組みです。上から目線の押し付けではなくて、「分かり合う自由な対話」が職員それぞれのセクションの間にある。そのような協力関係ができて、成果が上がってきていると捉えられると思います。
包括的に健康管理や人材育成を捉えて、働きやすい職場を作ることが、職員それぞれのスキルの十分な発揮、職員の心持ちにもつながっていきます。
まちの空気は、住んでいる人たちの心持ち、市民性によってつくられると思います。
かつて、高度経済成長期に汚れた諏訪湖をきれいにしようと有志の市民のみなさんが環境美化に取り組んできたように、その思いや活動があらゆることに広がっていくといいですね。
一人ひとりの心持ちが、大きな世の中を動かしていく。アンガーマネジメント協会のみなさんの思いやミッションにも通じるものだと思います。私たちもそこに共鳴しています。
株式会社ニコンについて
1917年の創業以来、光学技術の先駆者として世界をリードしてきた株式会社ニコン。
変化の激しい時代においても「信頼と創造」の企業理念のもと、培ってきた光利用技術と精密技術をベースに、多角的な事業を展開し続けています 。
同社は「健康安全宣言」のもと、持続的な事業成長と生産性向上の基盤として健康経営を経営戦略の一環に据え、社員一人ひとりが自らの健康を主体的に考え行動できる組織を目指しています 。
今回は、株式会社ニコン様の健康経営を支えるコミュニケーション活性化の取り組みについて、経営管理本部 副本部長兼人事部長の田島様、経営管理本部 健康安全課長の清水様にお話を伺いました。
「健康安全宣言」のもと、持続的な事業成長の基盤を築く
「健康経営優良法人2026」の認定も取得されている中で、現在推進されている健康経営が掲げる「目指すべき理想の姿」と、その実現のために特に注力されている具体的な施策についてお聞かせください。

ニコングループは、2023年3月に「ニコングループ健康安全方針」を制定し、派遣会社・請負会社の社員を含む、グループで働くすべての人を対象として、健康と安全、そして心の豊かさを大切にする職場環境づくりを推進しています 。この考え方を「健康安全宣言」として表明しています 。
製造業を営む私たちにとって「安全」は事業活動の根幹です。この土台の上に、働くすべての人の心身の健康を確保することで、快適な職場が形成され、ひいては持続的な事業成長と生産性向上をもたらすと考えています。
そのため、誰もが健康と安全を実感できる環境づくりを最重要課題の一つに掲げています。
近年は、仕事にとどまらず、日々の生活に密着したテーマの教育にも注力しています。ダイバーシティの観点から、男女それぞれの健康に関するセミナーを開催しているほか、今後は睡眠の質の向上や喫煙と健康の相関性など多角的なヘルスケア・テーマの導入も検討しています。
当社においては、「健康安全宣言」のもと、社員一人ひとりが自らの健康を主体的に考え、行動できる状態を「目指すべき理想の姿」と定めています 。
単なる疾病予防にとどまらず、心身のコンディションを整え、安心して働き続けることができる職場づくりを重視しています 。
その実現に向けて、ヘルスリテラシーの向上を一つの柱として、管理職および一般社員を対象とした教育・研修の実施、健康に関する情報発信、そして職場単位での対話促進など、組織的かつ継続的な取り組みを進めてきました 。
健康経営の観点から見た「コミュニケーションの質」に対する課題
理想の健康経営を目指す過程で、職場のコミュニケーションにおいて抱えていた課題について教えてください。
健康経営を推進する中で、当社では以前より、職場におけるコミュニケーションには改善の余地があると認識してきました。
このような状況は、個人のパフォーマンス発揮のみならず、職場全体の活力や安心して働ける環境づくりにも影響を及ぼしかねないものと捉え、健康経営の観点からも、コミュニケーションの質の向上が重要なテーマであると認識しています。
特に、エンジニアが7割を占める当社の環境下では、専門性の高さゆえに「正確かつ論理的に伝えること」が優先され、相手の意図を踏まえた双方向のコミュニケーションに課題を感じていました 。
しかし、コミュニケーションの本質においては、情報の「正確な伝達」が必ずしも「相互理解」に直結するわけではありません。
言葉の受け止め方の違いや、相手の背景にある想いへの共感といった点を踏まえ、コミュニケーションにおける認識のずれを解消して対話の質を高めることが、持続的な生産性向上に向けた重要な課題であると考えていました。
決め手は、感情を「適切に扱う」考え方と柔軟なカスタマイズ提案
数ある選択肢の中から、「日本アンガーマネジメント協会」のアンガーマネジメント研修を選定いただいた決め手を教えてください。
アンガーマネジメント研修を選定した理由は、感情を抑え込むのではなく、怒りの感情を『理解し、適切に扱う』という考え方が、当社の目指す健康経営と親和性が高いと感じたためです。
アンガーマネジメントに加えてアサーティブ・コミュニケーションを組み合わせた意図は、単に「感情を理解・コントロールする」ことにとどまらず、「相手にどのように伝えるか」まで含めて、実践的なコミュニケーションスキルとして身につけてほしいと考えカスタマイズに至りました。
また、日本アンガーマネジメント協会様の体系立てられた理論と、企業向け研修としての実績に加え、当社の課題に沿った柔軟なカスタマイズ提案をいただいた点も決め手となりました。
アサーティブな対話で職場全体の活力を高める
アンガーマネジメントに加え、「アサーティブ・コミュニケーション」を組み合わせたプログラムを導入された背景や狙いについてお聞かせください。
今回、アンガーマネジメントに加えてアサーティブ・コミュニケーションを組み合わせたのは、単に「感情を理解・コントロールする」ことにとどまらず、「相手にどのように伝えるか」まで含めて、実践的なコミュニケーションスキルとして身につけてほしいと考えたためです 。
怒りや不満といった感情を適切にコントロールできたとしても、表現方法を誤れば、建設的な対話にはつながらず、かえって相互理解を損なう可能性があります 。
そこで当社では、自身の感情を認識したうえで、相手を尊重しながら率直に伝えるアサーティブ・コミュニケーションを併せて学ぶことで、職場における対話の質を高めることを目指しました 。
特定の階層や職種に限定せず、全社員を対象とすることで、共通理解を社内に浸透させ、管理職と一般社員、技術職と間接部門など、立場や役割の違いを超えた円滑なコミュニケーションの実現を狙いとしています 。
この取り組みを通じて、相互理解に基づく安心感のある職場風土を醸成し、心理的負担の軽減や働きやすさの向上につなげることで、健康経営の推進と組織全体の活力向上を図っています。
個人の意識改革と現場での具体的な行動変化
研修実施後、具体的にどのような効果や変化を感じていますか?

研修実施後、受講者からは高い関心と好意的な反響が寄せられました。
かつては、この種のソフトスキル研修に対して受講意欲が限定的な側面もありましたが、
近年はその重要性への理解が進み、今回のプログラムも多くの社員が参加し、非常に前向きな評価を得ることができました。
研修後アンケートでは、『怒りや感情は相手のせいではなく、自身の価値観や状態に起因するものだと理解できた』『感情的に伝えるのではなく、言葉の選び方やリクエストとして伝える意識が高まった』といった声が多く寄せられています。
また、『指摘や依頼の伝え方を変えたことで、相手の反応が良くなった』など、現場での具体的な行動変化を実感する意見もあり、個人の意識と行動の両面で効果を感じています。
研修への評価と今後の展望
研修内容やサポート体制について、ご評価いただいている点がございましたら教えてください。

企画段階から当社の課題や背景を丁寧にヒアリングいただき、意図のずれなくしっかりと研修内容に反映していただけました 。
講師の方は企業研修の経験が豊富な印象で、理論と事例のバランスが取れた分かりやすい説明により、受講者が自分事として捉えやすいカリキュラムの設計となっていました。
また、事務局のサポートも手厚く、安心して研修を進めることができました 。
今後も、「心理的安全性が高く、率直に意見を交わせる組織づくり」を目指していきたいと考えています 。
今回の取り組みを一過性のものにせず、管理職層へのフォローアップや、日常のマネジメントに落とし込む施策を検討していく予定です 。
その過程において、日本アンガーマネジメント協会様や株式会社レビックグローバル様には、引き続き専門的な知見と実践的な支援を期待しています 。
コロプラについて:ゲームで“新しい体験”を届ける、エンターテインメント企業
コロナ以降、社内コミュニケーションが変化した状況に、ゲーム制作の現場は、どのように向き合ったのでしょうか。
2025年度「アンガーマネジメント経営賞」を受賞した株式会社コロプラは、役職者向けにアンガーマネジメント研修を導入し、後に全社員に対象を広げて実施しました。
「マネジメント」や「ゲーム開発におけるコミュニケーション」の視点や、「クリエイターが創造性を発揮できる環境作り」について、経営企画本部 人事戦略部 部長の北村主税(きたむらちから)氏にお話を聞きました。
アンガーマネジメント経営賞受賞、おめでとうございます。あらためて御社の事業について、教えていただけますでしょうか。
当社は、GPSを活用した「位置ゲー(位置情報ゲーム)」の先駆けである『コロニーな生活』から事業をスタートさせました。以来、「最新のテクノロジーと独創的なアイデアで、"新しい体験"を届ける」ことを追求し続けています。特に、『クイズRPG 魔法使いと黒猫のウィズ』や、指一本で手軽にアクションRPGを楽しめる『白猫プロジェクト NEW WORLD'S』は、多くの方に知られている作品です。
またスクウェア・エニックス様と共に、位置情報RPG『ドラゴンクエストウォーク』も共同開発しています。2025年は、AIを活用した生成ゲーム『神魔狩りのツクヨミ』もリリースしました。こちらはスマートフォン以外にPCでも配信しています。
このようなエンターテインメント事業と、あとは投資育成事業もやっていまして、大きく2つが当社の事業になります。

「マネジメント」と「ゲーム開発におけるコミュニケーション」の視点で、アンガーマネジメントを導入
アンガーマネジメント研修はどのような経緯で導入されたのでしょうか。現場の課題意識と合わせて教えていただけますか?
最初は2017年に、アンガーマネジメント研修を役職者向けに実施しました。それ以降は実施できていなかったんですが、コロナ以降、社内のコミュニケーションのあり方が変わったのが大きかったです。
ゲーム開発においては、互いに多様なアイデアや意見を出し合い、より良い作品を創り上げていくため、円滑なコミュニケーションが不可欠です。コロナ禍以降、社内コミュニケーションのあり方が変化したことで、感情のコントロールが難しい状況が見られるようになりました。発言する側も、受け取る側も、意図が十分に伝わらない、あるいは萎縮して議論が深まらないといった課題が生じていたため、改めて感情のコントロールや怒りについて学ぶアンガーマネジメントの必要性を痛感しました。
役職者からも、メンバーへの指導やコミュニケーションの部分で適切な指導をどうしたらいいのか、感情的になって一方的に言ってしまったというような相談も一定数ありました。そのため「マネジメント」と「ゲーム開発におけるコミュニケーション」という切り口から、まずは役職者へのアンガーマネジメント研修を実施しました。それが2024年ですね。
コロナ以降の社内コミュニケーションのあり方が変化したのは、やっぱりリモートワークの影響が大きいのでしょうか。
はい。直近では、オフィスへの出社勤務がベースになっていますが、やはりコロナ以降、対面での会話量が減っている印象はあります。お互いの関係値がない状態でコミュニケーションすると認識のズレが生じたり、お互いに意図しない伝わり方をしたりするので、より丁寧なコミュニケーションが必要だと思っています。
社長も「すごく良い取り組み」役職者をきっかけに全社員が受講
アンガーマネジメント研修は、最初は役職者向けに実施して、その後、全社員を対象に広げられました。その理由は?
代表の宮本も役職者向けアンガーマネジメント研修に参加し、「非常に良い取り組みなので、全社員向けにも実施すべきではないか」と提案がありました。私たちもその意義を強く感じていたため、全社員への導入を改めて検討し、実施に至りました。
024年3月に役職者、5月に役員、2024年7月〜12月に全社員が受講されました。受講者からはどのような感想がありましたか?
実際に寄せられた感想は、「知識としては知っていたが、あらためて話すことによって自分のものにできた」、「グループディスカッションがあると、お互いの気づきになって良い学びになった」、「理想のコミュニケーションを考える良い機会になった」などですね。「管理職として共通の認識ができたのは良かった」という意見もありました。
他にも「仕事だけではなく、家族や友人など他のコミュニティでのコミュニケーションでも、ぜひ使っていきたい」という声もありました。
全社員が受講したことで、アンガーマネジメントが社内の共通認識として広がったことと思います。組織にはどのような変化が生まれたと感じますか?
本当に、共通理解ができたのはすごく良かったと思います。相手の「べき」を考えたり、自分の「べき」にも気づけて、一方的に自分が言ってしまった、もしくは言われた時も、「相手の『べき』って何だろう?」といったことを考えるきっかけになっていると思います。そういう意味では、コミュニケーションの深さが一つ増して、建設的な議論ができるようになったのではないかと思います。

ゲーム制作の現場、みんなで議論しながら「面白い」を作っていく
北村さんもゲーム制作の現場にいらしたそうですが、ゲーム制作において建設的なコミュニケーションをする上で、アンガーマネジメントの導入は、どんな意義があると思いますか?
ゲームというのは、「面白さ」という人の主観に依った感情にアプローチしていくエンタメです。その「面白さ」は、Aさん、Bさん、Cさん......みんな違うんですけど、ゲームは「みんなの面白い」を作っていくものなので、本当にいろんな方面からの意見やアイデアを出し合って、議論を交わしながらプロダクトを作っていく。他の製品にはないものづくりの仕方をしていると思います。
そういう意味でも、コミュニケーション量や議論が重要だと思うので、アンガーマネジメントを導入したことによって、コミュニケーションの深さが生まれて、言わずに留めていたことを、もう少し相手に配慮した言い方ができるようになり、よりプロダクト作りにとって良い議論の場が提供できるようになったのではないかと思います。
研修の担当者によると、御社の方はエンジニアも含め、とても議論が活発でディスカッションも大いに盛り上がったそうです。
やはり、ものづくりの現場というのが大きいと思います。弊社はゲームのアイデアを考える時に、企画を考えるプランナーはいますが、「エンジニア的には、こういう視点でやった方が面白い」とか「いちユーザーとしてはこっちの方が面白いんじゃない?」と、その場で意見を出し合いながらものづくりをするので、エンジニアも、デザイナーも、プランナーも、サウンド職も、みんながお互いにいいものを作ろうとフラットに意見を出し合うカルチャーがあります。
またコロナ禍以降、仕事で関わる人以外のコミュニケーションが減っていたので、研修に参加することによって、久しぶりに会う人に「最近何してるの?」とか、そういうコミュニケーションのきっかけになったようで副次的に良かったなと思います。

エンタメは“人”が生み出す。クリエイターが創造性を発揮できる環境を
御社では、「健康経営優良法人」「スポーツエールカンパニー」「くるみんプラス」など複数の認定を取得され、男性の育児休業支援(取得率72%、平均148日)も推進されています。エンターテインメント企業として、どのような環境を創ろうとしているのでしょうか。
継続的なエンターテインメント体験は、人の手によってのみ生み出されると考えています。PCや電子データは用いますが、その根幹にあるのは人のアイデアであり、そこから生まれるアートやプログラムです。人が生み出すものである以上、クリエイターが良い開発を行い、質の高いサービスを継続的に提供できる環境を整えることが、経営上も極めて重要であると認識しています。
よく社内では「クリエイターファースト」という言葉を使いますが、クリエイターが自身の能力や情熱、創造性を思いっきり発揮して、より良い価値を提供できる環境を整えることが、会社として一番取り組んでることです。
安心して、中長期的に高パフォーマンスな創造性を発揮してもらうには、健康も大切ですし、家庭の理解も大切だと考えています。クリエイターが思いっきり仕事ができる環境を、人事やバックオフィスも含めて連携して提供していこうと思っています。
そういった取り組みは、中途や新卒の採用の面でも効果を感じていますか?
そこは感じますね。やっぱり安心して働けるというのは、エンタメ業界では重要なポイントなのかなと思います。ゲーム業界は人材の流動性が高く、魅力ある企業には人は集まってきます。良いクリエイターを集める意味でも、環境作りは重要だと思います。
アンガーマネジメントの視点からも、今後の取り組みについて何かあればお聞かせください。
引き続き、ゲームやエンタメ作りにおいて創造性を思いっきり発揮するという意味でも、アンガーマネジメントをはじめとするコミュニケーションのスキルは、従業員に身につけていってほしいなと思います。
アンガーマネジメントみたいに、後から獲得できる知識は身につけておいた方が絶対に価値創造には有利です。従業員にとって武器となるスキルは、人事からもちゃんと提供の場を設けていきたいと考えています。
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アンガーマネジメント経営賞 受賞企業一覧および各社受賞理由、受賞コメントはこちら
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セイコーエプソン株式会社について
セイコーエプソン株式会社(以下、セイコーエプソン)は、長期の時間軸で「人が自律的にキャリアを形成し、成長し続ける会社」を目指して人材育成強化を掲げています。
そして公平で働きやすい職場環境の実現に向けてパワーハラスメントの撲滅のため、2015年度より「アンガーマネジメント研修」を導入しました。現在その開催回数は800回以上、累計受講者数は1.3万人を超え、実施数の多さからも反響の高さが伺えます。
その継続年数と圧倒的な受講人数もさることながら、全経営層がアンガーマネジメント診断受検を必須とし、アンガーマネジメント研修を階層別・職場別のほかグループ会社にも実施しており、社全体で健全な職場環境の実現に向けた取り組みを推進しています。
当協会ではその取り組みを讃え、昨年2023年に開催された第1回「アンガーマネジメント経営賞」では、アンガーマネジメント経営賞 大賞をお贈りしました。
アンガーマネジメントを社内研修に導入した人事部 土田英文様に、その取り組みや成果についてお話を伺いました。
ハラスメントで処分を受けた社員の今後の対策を模索していた時に、アンガーマネジメントと出会った
貴社は「人材」をかけがえのない経営資源として位置付け、人材開発・教育を実施していらっしゃると伺いました。そこに向けた人材戦略についてお聞かせください。
当社では自由闊達で風通しの良いコミュニケーション環境により関係の質を向上させ、社員と会社が成長し続ける組織風土を目指しています。
そのために掲げているテーマとして「健康経営」と「人権の尊重」があります。
まず「健康経営」については、当社では社員と会社が一体となり「いきいきと楽しく働くことができる職場環境づくり」「こころとからだの健康づくり」に取り組んでいます。2022年から今年2024年までの3年連続で、経済産業省と東京証券取引所から「健康経営銘柄」に選定されました。
そして「人権の尊重」は、当社は企業活動における人権の尊重は企業が果たすべき重要な責務であると考えています。ハラスメント等の人権侵害事案の未然予防・再発防止に努めています。
「健康経営」も「人権の尊重」も、アンガーマネジメントの理念は欠かせないものと考えています。
さらに当社代表の小川は「社会貢献と従業員の幸せ」を大切にすると明確なメッセージを発信しています。
このように代表をはじめ社として従業員の幸せを目指す風土となっていることが、ここまでアンガーマネジメント研修の開催を継続できたことに繋がっていると思います。

アンガーマネジメント研修導入以前の課題と、導入が進んだ背景を教えてください。
また、アンガーマネジメント以外にもコミュニケーションやチームビルディングに関する様々な研修がある中、導入に至った理由をお教えください。
それまでの人事部門の研修導入の形とは異なり、導入のきっかけは個人的なスタートでした。
社内でパワハラに関する問題が発生した時に、会社としては事実確認をしてパワハラ認定して処分するというサイクルはもちろん構築していましたが、そこから行為者本人が自身をどう改善してくのか、その術がありませんでした。
そこに課題を感じていた時に、「アンガーマネジメント」に出会いました。
書籍を読んだ瞬間、パワハラ対策・改善にはこれだと思って、日本アンガーマネジメント協会のイベントに参加しアンガーマネジメントファシリテーター養成講座に飛び込んで資格を取得しました。
※参考情報)
セイコーエプソン株式会社コーポレートサイト「人権の尊重 | サステナビリティ 」ページより「パワーハラスメント防止への取り組み」にて、パワハラ防止研修などの詳細をご覧いただけます。
https://corporate.epson/ja/sustainability/our-people/human-rights.html
「怒りは高いところから低いところへ流れる」から、導入時から管理職へのアンガーマネジメント研修をはじめた
今まで行った研修メニューについて教えてください。
はじめはアンガーマネジメントに興味のある人を終業後に募って一緒に学ぶ場を作るところからスタートしながら、並行して役員研修として管理職全員に受講してもらえる計画を立てました。
当初から経営層や管理職へのアンガーマネジメント研修は必須だと思っていました。
なぜなら「怒りは高いところから低いところへ流れる」から。立場の強いものから弱いものへ、怒りは流れていきます。
だから2015年12月に私がAMFT(アンガーマネジメントファシリテーター)の認定を受けてアンガーマネジメント入門講座を開講できるようになってから、すぐに翌月の2016年1月にはこの研修を開講しました。
AMFTの資格を取得してからも、アンガーマネジメント入門講座以外にも自社で開催できる講座やセッションの幅を広げるために、アンガーマネジメントコンサルタントをはじめとした各種資格を取得しました。
怒りの感情との向き合い方や長期的な体質改善のスキルを身に付ける基礎編から、パワーハラスメントにならないコミュニケーションスキルを学ぶ叱り方教室など、経営層への展開を筆頭に、階層別・職場別・自己啓発(任意申し込み型)など、2024年3月度までで805回実施開催し、当社および国内関係会社延べ1.3万人余りが受講しています。
従来の知識としてのパワハラ防止研修に加え、具体的なスキルの習得でパワーハラスメントの撲滅を目指しています。
※各種企業研修の詳細はこちら>
アンガーマネジメントファシリテーター養成講座の詳細はこちら>
トップ層からアンガーマネジメント研修を導入していったのですね。
全経営層の方々に受検必須とされているアンガーマネジメント診断を、どのように活用していますか?
2016年から毎年アンガーマネジメント診断を経営層には実施しており、「健康診断」のごとく診断結果のフィードバックを続けております。
そして特に変化があった方や、気になった方などに関しては、個別にフォローをすることで、毎年の循環が良好に継続できることを目指しています。
一人ひとりがアンガーマネジメントを日常化し、自力で継続的に変化に対処できるようになるためには、5年や10年は簡単にかかる
アンガーマネジメント研修に対する社員様や、人事ご担当者様の感想をお聞かせください。
研修アンケートの満足度は、5段階で平均4.5ポイントレベルと高得点です。
ただ、受講者にはアンガーマネジメントのような心理トレーニングは新鮮でインパクトがあり、これはある意味当たり前だと思っています。
むしろ本当にその後取り組めているかが大切だと思っています。

研修受講後の社員様の変化や反響があれば、お教えください。
当初、各回定員20人で募集したところ、募集開始1時間以内に満席になるような状態が1年以上続いて、反響は大きかったです。
そしてある程度反響が落ち着いた後、コロナ禍で対面での研修開催がままならなくなりオンラインでの開催を実現したところ、再び20名の募集が満席になり続けるという状態が続きました。申し込めなかった社員からクレームも来て、反響の高さに驚きました。
変化といえば「アンガーマネジメント」とか「6秒ルール」のような言葉は、会社の共通言語になったのではないかと思います。
またここ数年は、社内の職場単位・部門単位で受講したいというニーズが増え、解決志向やチームビルディングなど、実践的な応用分野に取り組む傾向もみえます。職場としての必須研修として位置づけて受講を促しているケースもあります。
また、セイコーエプソンのみならず、連結のグループ会社でも階層別研修として位置づけたり、トップも自ら旗を振って受講したりと社外にも拡大しています。
アンガーマネジメント研修を2016年1月に導入していただき、今年で9年目を迎えます。長期的に続けてくださった理由や、ご評価いただいている点があればお教えください。
一人ひとりがアンガーマネジメントを日常化し、自力で継続的に変化に対処できるようになるためには、私は最初から5年や10年簡単にかかると思っていました。
ましてや変えてやろうなどという風に息巻いて取り掛かったら、かえって遠回りになると思っています。
任意申し込み型であるオープンコースは、もともと関心のある社員が中心なので、アンガーマネジメントを知るきっかけとしては良かったと思います。ただ、どうしても「参考書を買って安心した」という風に、わかった気になって結局は習慣化しないということはいくらでも起こりうると感じています。
当初から私はこの研修において、「何度でも受講してね」と伝え続けています。
実際に、3回、4回、5回と顔を見せて、やっと表情が変わったというかたもいらっしゃいます。
AMFT養成講座に自ら参加して講師になった人もいます。
自然発生的に、そうやってアンガーマネジメントによって自らを変えることができたという社員が増えてきた時に、やっと効果が出てきたといえるのかなと思います。
もともとはパワーハラスメント撲滅が目的でしたから、その発生状況などが研修成果を計るひとつの指標になるのでしょうけれど、それだけがゴールではないと感じています。
貴社内でアンガーマネジメントを活用しながら実現したいと考えていることはありますか?
徐々に職場単位での受講が増えてきています。
これは組織としてメンバーみんなが「こういう職場にしたい」という意識が芽生えてきた証かなと思っています。
これこそが健全なソリューションフォーカスアプローチかなと感じます。
そしてそんな風にベクトルが未来に向かっている中で、今後はもっと職場内でのグループセッションが増えるといいなと思っています。
グループセッションによってその時その時の自身の気づきを得て何でも解決ができ、それをチームに持ち帰って未来に生かしていく、そういう流れを生む仕掛けを作りたいですね。
あと、アンガーマネジメントの熱意や継続する意思を持つ私の後任を、そろそろ見つけなければと思っています。