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「一番の変化は、挨拶がすごく増えたこと」

2025年度の「アンガーマネジメント経営賞」大賞を受賞した諏訪赤十字病院(長野県諏訪市)の久島英雄(くしまひでお)病院長(写真左)はそう語ります。

医療現場におけるハラスメントは、チームの円滑なコミュニケーションを阻害し、医療ミスのリスクにもなりうる大きな課題です。

同院は、日本赤十字社ハラスメント防止規程に基づき「ハラスメント対策委員会」を設置。院長による「ハラスメントゼロ宣言」をはじめ、「ハラスメント防止研修」の実施や「ハラスメント相談窓口」の設置など、先進的な取り組みによって着実に対策を進めてきました。

9年間に渡って、管理職層を中心に「アンガーマネジメント研修」も継続されています。アンガーマネジメントの導入は、同院にどのような変化をもたらしたのでしょうか。

医療現場における心理的安全性の重要性とともに、久島病院長と、原雅功(はらまさのり)事務副部長兼人事課長(写真右)にお話を聞きました。授賞式でのコメントと合わせてご紹介します。

「アンガーマネジメント経営賞」大賞受賞の久島病院長のコメント

本日、このような栄えある授賞式にお招きいただきまして、誠にありがとうございます。

私たち諏訪赤十字病院は、たしかに9年間(アンガーマネジメント研修を)やっています。大したことをやってるわけではないんですが、この9年間で3人、病院長が代わってるんです。ただ、病院長が引き継ぎ、細々とですけれども続けてきた。そういったことが、この度の受賞につながったのかと考えております。これからも職員の満足度の向上と、病院という組織の中でのハラスメントを根絶するために頑張っていきたいと思います。今日はどうもありがとうございました。

アンガーマネジメント研修後、飛躍的に増えた「医師からの挨拶」

——この度は「アンガーマネジメント経営賞」大賞受賞、おめでとうございます。9年間に渡り、継続的にアンガーマネジメント研修を実施され、管理職層を中心に延べ701名が受講されています。組織にはどのような変化がありましたか?

久島院長(以降、久島):組織の中にいると、実感しにくい部分はありますが、一番の変化は、挨拶がすごく増えたことです。一時期、原は日本赤十字社本社に3年間勤務し、その後また当院に戻ってきたのですが、そのときに実感したことが、「挨拶がすごく増えた」と。

原事務副部長(以降、原):とくに医師からの挨拶が飛躍的に増えましたね。雰囲気が明らかに変わっていると感じました。さらに昨年よりも今年の方が、職員間の挨拶の頻度は高まっていると感じます。

日頃から、院長が「心理的安全性」の重要性について職員にメッセージを発信していますので、そういった心理面も後押ししているのだと思います。

——アンガーマネジメント研修を導入されたきっかけについて教えてください。

久島:研修を始めたのは、今から9年前の2016年です。当時、ハラスメント対策委員会を立ち上げ、ハラスメントが発生した際に職員が相談できる窓口として「ハラスメント相談員」を配置し、事案に対応しました。この立ち上げと同時に、アンガーマネジメント研修を導入したんですね。

原:当時は、まず日本赤十字社として職員へハラスメント対応のルールを中心に周知徹底しましたが、それだけでは変わらなかった。そこで、ハラスメントを発生させない未然に防ぐ良い手法はないかと模索する中で、アンガーマネジメントを知りました。
その頃は、まだアンガーマネジメントは珍しく、信州で受講した人はあまりいませんでした。研修講師を調べていくうちに、市内のセイコーエプソン株式会社にアンガーマネジメントファシリテーターが在籍していることを知り、知人につないでもらったんです。それ以来、ずっと研修を継続してご指導いただいています。

「人間関係の悩み」が少ない医療機関。管理職は必須、9年間の研修継続によって生まれた変化

——研修は、どのようにして浸透していきましたか?

久島:最初の年に、管理職はほぼ全員、120名ほど集めて研修を実施しました。

原:当時は、職員の間でも「6秒ルール、知ってる?」なんて会話が交わされるほど話題になりましたね。新しいカルチャーが入ったなと思いました。

久島:その後も、新しく職員になった人や管理職に昇進した人たちが研修を受けていく体制を整備して、9年間、継続的に続けてきました。

——具体的な効果について、もう少し詳しく教えていただけますか?

久島:職場の満足度も年々上がってきています。また、職員を対象にしたストレスチェックの結果を見ると、当院は業務量が多く忙しい職場なんですが、「人間関係で悩んでいる」という項目の数値が非常に低く抑えられています。これは、ハラスメント対策委員会が中心となり長年、取り組んできたことが実を結んでいるんじゃないかと思います。

——医療の現場、患者とのコミュニケーションにも生かされていると思いますか。

久島:職員が生き生きと元気に働いていると、おのずと患者さんにも優しくなれます。ギスギスしてると患者さんにも厳しくなる。そこはもう明らかだと思います。

アンガーマネージメントが他の病院にも波及、医療現場に必要な“心理的安全性”

——あらためて、医療機関がアンガーマネジメントに取り組む意義はどこにあるのでしょうか?

久島:医療が、工業や民間企業と一番大きく違うところは、機械じゃなくて、すべて「人」がやるところです。当院は455床で、1170人の職員がいます。それだけの病院を回すのは、すべて人の力です。その人間同士のコミュニケーションや連携が最も重要になります。もしそれが崩れれば、必ず医療事故につながります。

いい医療をやるためにーー。そういった理由を重視して、私たちはアンガーマネジメントに取り組んでいます。我々にとってはコミュニケーションが一番の財産です。

——“医療現場における心理的安全性”は本当に大事ですね。どうすれば、このような取り組みが、他の医療機関にも広がっていくと思いますか。

原:当初、当院でアンガーマネジメント研修を開いたところ、地域の医療関係者の間で話題になり、他の病院でも実施したケースはありました。ただ、当院のように継続的に実施しているところはなかなかないようです。

今回の受賞を通じて、赤十字や地域でも情報発信されると思いますので、これをきっかけに波及していくことは考えられるのかなと思います。

……

諏訪赤十字病院は、ハラスメント対策委員会を中心にハラスメント防止の継続的な取り組みを行い、「コンプライアンスに対する満足率」は49.8%(2017年度)から63.7%(2024年度)に上昇。「パワハラに関するDI値」も同期間に−14%から+17%へと大幅に改善(+31ポイント)しており、その効果は数値でも裏付けられています。

日本アンガーマネジメント協会には、「前の環境(諏訪赤十字病院)がよかったから、アンガーマネジメント研修を今の職場でもやりたい」という他機関医療者の声が寄せられるほどです。

医療機関における職員の心理的安全性を保つことが、いい医療につながる。大切なことを教えていただきました。私たちもアンガーマネジメントを通じて、医療現場に貢献していきたいと思います。

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